絵本からはじまるアクティブラーニング
谷口幹也
コロナ禍が収束しない現在、他者の痛みに寄り添い寛容であること、情報を精査する力、自律的に考え行動すること、問題を解決する力、これらのことがより大切になっています。
今日、教育の場において日本を含め世界各国で注目されているのが21世紀型スキルです。21世紀型スキルとは国際団体「ATC21s」によって提唱された、今日の社会を生き抜くために必要な能力、次の社会を支えつくり出す若者が習得すべき力とされています。具体的には、批判的思考力、問題解決能力、コミュニケーション力、コラボレーション力、情報リテラシーなどを指します。21世紀型スキルの教育では、これまでの座学に加え、アクティブラーニング、課題解決型のプロジェクト学習が重視されます。
では保育・教育者養成の大学では、どのような学びが必要なのでしょうか。日本の多くの大学生にとって「学び」はつまらない、面倒なものだといった先入観、人の優劣を決める残酷なものといった思いがあるように思います。しかしそれらは「学び」ではなく、「つまらない授業」「我慢を強いられた勉強」「偏差値」に関するイメージではないかと思います。大学では、「学び」は面白く、生涯に渡って必要な人生を切り開く営みであると知ることが必要です。そして人類の知見を吸収する「学習」に加え、自ら「問いを立て学ぶ」=「学問」へと展開することが必要です。「学び」に関する先入観をリセットし、アップデートする機会が大学教育だと言えます。
これらのことを前提として、九州女子大学人間発達学専攻では、科研費の助成を受けART×絵本×ICT保育・教育者養成プロジェクトを実施しています。一年次学生を対象としたその関連授業「スキルアップ講座J」はアクティブラーニング型で実施され「絵本からはじまるプロジェクト学習」を行っています。学生たちは9月から12月の期間、「現場で働く保育・教育者が絵本の新たな魅力を知り、その活用法を知ることができる動画を作成する」というプロジェクト学習に取り組みます。①絵本に出会い直す。②絵本の魅力を伝える動画を企画・制作する。③動画を発表・披露する。これらの活動を通じて、学生たちは21世紀型スキルを学び、今後、自分自身で学びを拡げる素地をつくるのです。
ART×絵本×ICT保育・教育者養成プロジェクトが重視していることは以下の三点です。
【プレイフル・ラーニング(本気で遊び、真剣に楽しく学ぶ)】
今日の幼児教育では「主体的な遊びは重要な学習である」と定義され、幼児教育は、生涯に渡って学び続ける力を基礎づける重要な教育の機会とされています。「学びは面白い」この感覚を身につけるために必要なのが「主体的な遊び」です。「遊び」は、自由であり、自己決定や試行錯誤、創造性のある活動であると考えられます。この「学びに満ちた遊び」の場と時間を用意し作り出す保育・教育者は「本気で遊ぶ」ことを経験しなければなりません。真剣に楽しく学ぶ=プレイフル・ラーニングが重要です。
【コラボレーション(仲間と協働する)】
学生同士が気を使い合い恐る恐る関係を作っていく、そんな現在が大学にはあります。だからこそ仲間をつくり協働する機会が重要となります。問題を解決し課題に取り組むためには一人よりも多くの仲間と取り組んだ方がより満足のいくもの、想定以上の結果を得ることができます。この醍醐味が重要です。納得がいくまで話し合い、仲間と共に試行錯誤した経験は、多くの気づきと学びを生み出します。
【リフレクション(気づきと学びを省察する)】
私たちは、完成した動画のできばいを評価することはありません。それよりもプロジェクトに取り組む中で学生が何に気づき言葉にしてきたかを重視します。学生たちは取り組みの経過と気づきをWeb上に蓄積し、自分自身の変化に気づき、省察する力を身につけること、これが何よりも大切です。
学習から学問へ。孤独な個から自律した個人へ。共に楽しみ学び高め合う同志に出会う場を。私たちは大学をより充実したものにしなければなりません。ART×絵本×ICT保育・教育者養成プロジェクトは、九州女子大学人間発達学専攻の学生たちと共に「プレイフル・ラーニング=真剣に楽しく学ぶ」を実践していきます。
〈参考サイト、文献〉
http://www.atc21s.org/
https://lightworks-blog.com/21st-century-skills-outline
文部科学省「幼稚園教育要領解説」平成三〇年二月